◆危機一髪!踏み切りからの脱出

 今年撮影した写真はたぶん延べ3000枚を超えると思われる。その中で、“普通種・珍種”という色めがねを外し、素人受けするベストショットを上げろと言われれば、それはフォトギャラリーで公開中のヒャクニチソウで吸蜜するツマグロヒョウモン♀であろう。夏休み第一日目の撮影だったのでよく覚えている。いや、よく覚えているのは別の原因のためである。この日は本当は長野県にいるはずであったのだが、かの地の天候不良により、急遽遠征を取りやめ、やむなく近場での撮影となったのであった。私の場合「近場」といっても半径50km以内を指すことをこの際明らかにしておく。

 炎天下の天候と二日酔いの朦朧とした頭で撮影を敢行し、空腹を覚えた正午前には帰途に着くべく車を走らせていると、のろのろ前を走る4トンダンプに追いついてしまった。ダンプ特有の加速の度にモコモコと黒煙をあげ、チンタラする走りに知らず知らずのうちにイライラがつのっていったのであった。悲しいかなそんな感情の変化にそのときは気がつかなかった。
 そして、ついに問題の場所に来てしまった。その場所、その交差点の名は「法華口」。片側一車線の3桁田舎国道と、同じ車幅の県道が交わるところ。その交差点のわずか30m手前を線路がななめに横切っているロケーションである。“線路”とはいっても電車は走っていない、ここを走るのはバスである。市電やトロリーバスではなくレールバスである。しかも1時間か2時間に1本しか走っていなくて、私自身この踏み切りを何十回となく通過しているが、今だかつて遮断機が下りるのに出くわしたことがないのである。都会ではよく“開かずの踏み切り・・・”という言葉を耳にするが、さしずめここは“閉じずの踏み切り”なのである。

 話を元に戻そう。ダンプの後について5分が過ぎたころ、問題の踏み切りに達した。先行のダンプは踏み切り手前で一旦停止した。何を隠そう5年間有効のゴールド免許証を持つ私も当然のことながら一旦停止し、ダンプの後を追うように踏み切り内に入ったのであった。その時30m前の交差点の信号が赤になっていて、私の前に5台の車が止まっていた。うかつにも踏み切り前方に停車スペースが確保されているのを確認せずに踏み切りに進入してしまった。ちょうど車のオシリ半分が踏み切りの内側に入る位置で止まってしまった。でもあせりはなかった。なにしろ“閉じずの踏み切り”なのだから。

 あたりの静けさを破るように、突然「カーン、カーン、カーン」と警報機が高らかに鳴り響き、遮断機が「グーン・・・」という機械音とともに下りてきて私の車の屋根にのっかった。斜め後方を振り返り、迫り来る電車、じゃなかった、バスをしっかりとこの縁無しの眼鏡のむこうに捉えた。だんだん近づいてくる。と同時に、「プォー、プォー、プッウォー」とけたたましい警笛音も近づいてくる。信号は依然として赤のままだ。すこし慌てた。まず目前のダンプを前に詰めてもらおうと、クラクションを鳴らした。でも、短くそして頼りなく「プッ・・」としか鳴らない!何度やっても同じ結果に焦りは深まる。こんな音では“屁のつっぱり”にもならない。(*そのときは解らなかったが、後で実験してみると、力いっぱい、思いっきり、クラクションを叩いてみるとこんな音しか出ないのだ!トヨタ車要注意!)依然として、前のダンプは私の絶対絶命のピンチに気づいてくれない。10cmも前に進めないのだ!
 ついに頭がパニクッた。ここでひらめいたのは、“車から逃げる”こと!もう、これしかない!意を決した!でも無常にもシートベルトは外れてくれなかった。その時、急に体が後ろに倒れた。シートベルトを外すつもりがリクライニングレバーを引いてしまったのだ。
 もうだめだ!「天は我を見放した!」(*八甲田死の彷徨と同じシチュエーションだ!)、と観念した。

 その時、前のダンプがこの状況に気がついたらしく、1m進んでくれた。私も続いた。でもまだ車の1/3は踏み切りの中にある。車の屋根と遮断機の竹のこすれる音が耳につく。
 運命の瞬間が過ぎる・・・

 すざまじい警笛音の中、時が過ぎた・・・間一髪セーフ!!!

 次第に遠ざかるバスの音を聞きながら、ヘナヘナと腰が抜けた。新宮設備のダンプの運チャン、よくぞ気がついてくれた!ありがとう!!北条鉄道のバスの運チャン、ゴメンナサイ!もう2度といたしません!!


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